社員インタビュー:未来をひらく装置をこの手でつくる液化水素用ローディングアーム製作の最前線
カーボンニュートラルの実現に向け、世界が熱視線を送る次世代エネルギー「水素」。その実用化を支えるのは、つくる・運ぶ技術だけではありません。エネルギーを巨大タンカーから陸地へと安全に届ける「受入・供給」のインフラがあって初めて、水素社会は現実のものとなります。その供給網の要となるのが、TBグローバルテクノロジーズ(以下TBG)が10年以上にわたり、複数の企業や研究機関と共に開発を続けてきた「液化水素用ローディングアーム」です。
今回の舞台は、技術の拠点である新潟県長岡工場。ここに、マイナス253℃という極低温の未知なる領域で、世界初となる装置開発に挑んできた一人の溶接技術者がいます。 「誰も作っていないものを作る」 前例のない現場で求められた試行錯誤と、未来を切り拓く情熱。次世代エネルギーの実用化を支える技術の最前線と、一人の技術者が歩んできた挑戦の姿をお届けします。
目次
・社会を支える装置、その最前線へ
・未知への挑戦と、現場の試行錯誤
・実証から未来へ、技術をつなぐ
・取材を終えて|グループ広報部より
社会を支える装置、その最前線へ
エネルギーをつなぐローディングアーム
海を渡ってきたエネルギーを陸へ受け渡す巨大なローディングアーム。その製造を支えているのが、TBGの製造拠点である長岡工場だ。工場内では、溶接技術者たちが高い精度と熟練の技で、一つひとつ巨大な構造物を形にしている。
2004年に新卒で入社したある技術者も、その最前線でローディングアームの製作に携わってきた一人だ。厚みのある鋼材をつなぎ合わせ、わずかなズレも許されない緊張感の中で精度を積み上げながら、長年にわたり製品づくりを支えてきた。
ここでつくられたローディングアームは、海外からタンカーで運ばれてきたエネルギーを、港で船と陸とをつなぎ、社会へと受け渡す役割を担っている。海面の揺れに追従しながら確実に接続されることで、エネルギーの流れが成立する。ローディングアームは、社会インフラを根底から支えている。
こうした技術の積み重ねが、TBGのローディングアームにおける国内シェア約9割以上という実績を支えている。その製造の中核を担う長岡工場では、社会インフラを支える装置が、絶え間なく生み出され続けている。
水素エネルギーへの挑戦
2014年、長岡工場の現場に、従来とは次元の異なるプロジェクトが舞い込む。それは、液化水素用ローディングアームの開発だった。
この溶接技術者は、その試作機製作の中心に立つことになる。
脱炭素社会の実現に向けて、世界的に導入が進みつつある次世代エネルギー「水素」。CO₂排出を抑えられる特性から、その社会実装に向けた動きが加速していた。国の推進プログラムのもと、複数の企業や研究機関が連携し、液化水素の実用化に向けた取り組みが本格的に始まる。その中で、世界初となる液化水素用・船陸間移送ローディングアームの開発を、TBGが中心となり担うことになった。
しかし、マイナス253度という極低温で扱われる液化水素を、安全かつ安定的に移送する技術は、当時まだ確立されていなかった。この開発は単なる製品開発にとどまらない。次世代エネルギーの供給網そのものを形づくる、10年規模の挑戦でもあった。
その試作機の製作に、主担当として携わることになる。長年にわたりローディングアームの製作に向き合ってきた経験が、この難度の高い試作を託される背景にあった。ローディングアームという同じ装置でありながら、液化水素を扱うということは、求められる条件はこれまでと大きく異なる。一つひとつの工程に試行錯誤を重ねながら、装置を形にしていった。
液化水素という新たなエネルギーに向けた挑戦。その最前線で、試作機を立ち上げていった。
未知への挑戦と、現場の試行錯誤
誰も作ったことのない装置に挑む
液化水素という未知の領域を扱うローディングアームは、これまで誰も作ったことのない装置だった。
「複雑すぎて、最初は何をどう進めていいのかわからなかったですね。」
試作機製作の中心を担う存在として、開発初期から設計者や関係メンバーとの会議にも加わり、装置構造の検討に深く関わっていく。
最大の壁となったのが、マイナス253度という極低温環境だった。材料は大きく収縮し、応力のかかり方もこれまでとはまったく異なる。従来のローディングアームで前提とされてきた条件が通用しない世界だった。
さらに構造そのものも従来とは一線を画し、単純な順序では組み上げられないものだった。
「図面通りに作ればいい、という話では全くありません。」
図面上では成立していても、実際にその通りに機能するとは限らない。設計と現場が意見を交わし、完成度を高めていく必要があった。だからこそ、この開発では「実際に作りながら確かめる」ことが不可欠だった。現場で手を動かし、確かめながら、構造をどう改善すべきかを検討し、その結果を設計へと反映させていく。未知の構造を成立させるという、重い役割だった。
設計と現場を往復しながら、その課題に向き合い続けた。
試作と検証を繰り返す
試作機の製作は、一度で完成するようなものではなかった。製作し、検証し、試験を重ね、課題を洗い出し、また作り直す。その繰り返しの中で、装置は少しずつ完成形に近づいていく。
とりわけ難易度が高かったのが、液化水素用ローディングアーム独自の真空断熱構造だった。内管と外管のあいだに真空層を設け、二重構造とすることで、マイナス253度という極低温を保つ。しかしその構造は、製作の観点では極めて扱いづらいものでもあった。内管は両端でのみ支持され、中間部分は金属で接触していない。つまり内部の配管は完全に固定されているわけではない。
「中は、“宙ぶらりん”の状態で溶接をしないといけないんです。」
さらに内管には、温度変化による収縮を吸収するためのベローズという部品が組み込まれている。バネのように伸縮するこの部品は、極低温環境では不可欠な存在である一方、動いてしまうため製作をする上での基準として成立しにくいものでもあった。わずかなズレが、全体の精度や安全性に直結する。固定されていない不安定な構造を成立させること。それ自体が、この開発における最大の難所だった。
「一番時間をかけたのは、溶接そのものよりも段取りでした。」
どの順序で組み立て、どこで溶接を行うか。熱による歪みを見越しながら工程を設計しなければ、最終的な精度は出ない。図面には現れない“工程そのものの設計”が、完成度を左右していた。
製作を進める中で、設計段階では見えていなかった課題も次々と浮かび上がる。その都度、現場で得られた知見が設計へとフィードバックされ、構造や仕様が見直されていく。設計と現場が往復するプロセスの中で、装置は精度を高めていった。
それでもなお、最後に残るのは図面や理論だけでは解決できない領域だった。
「やってみないと分からないことが、本当に多かったですね。」
長年の経験の中で蓄積された感覚。どこまで歪むか、どの程度で収まるか。その判断は、数値ではなく身体に刻まれた“経験の蓄積”に委ねられていた。
試作と改良を繰り返した先に、ようやく一つの形が立ち上がる。
「すべての溶接が完了して、二重構造の状態を確認すると、内管が外管の中で宙づりの状態になっていることが確認できました。内管を外管で包んでいくので、これは溶接する人間にしか見れない光景なんです。思わず“やった!”と感じる瞬間でした。」
世界初となる液化水素用・船陸間ローディングアーム。その試作機は、現場の技術と試行錯誤の積み重ねによって完成へとたどり着いた。
「最後は、経験を積み重ねることで培われた職人の勘でした。」
実証から未来へ、技術をつないでいく
製品として、ようやくスタートラインへ立つ
開発をはじめてから10年以上が経過した2025年、大きな節目を迎えた。液化水素用ローディングアームが、液化水素サプライチェーンの実証プロジェクトに採用された。
それは単なる受注ではない。これまで構想と試作を重ねてきた技術が、次の段階へと進んだということだった。
「何もないところからのスタートだったので、まずは、やっとここまできたなという気持ちです。」
次に進むプロジェクトは、液化水素の輸送・受入・供給までを一体で検証していく大規模な取り組みである。実用化に必要な性能や安全性、耐久性、信頼性といった条件が、実際の運用環境の中で確かめられていく。これまで“成立するかどうか”を問い続けてきたものが、今度は現実の中で試される。
「ようやく“製品として作っていく”スタートラインに立てた、という感覚に近いかもしれません。」
ここから先は、これまでとはまったく違うフェーズになる。
ゴールはまだ先。それでも、未来へと続く扉は、確かにひらかれた。
技術を未来へつなぐものづくり
実証という新たな段階に進み、求められるものも大きく変わる。
これまでの開発では、目の前の一台を成立させることが最優先だった。図面通りにいかない中で、どこまで許容するのか。その判断は、現場の経験や感覚に委ねられる部分も多かった。
しかし、その先の実用化を見据えたとき、同じやり方では通用しない。
「製品としてつくるからには、誰もが再現できる形にしていく必要があります。」
どの条件で、どの工程で、何を守れば同じ品質が担保できるのか。これまで積み上げてきた知見を、手順として定義していく。これは、作り方の整理ではない。装置としての信頼性を、誰が関わっても同じ水準で成立させるための土台づくりである。
そして、液化水素という未知の領域に向き合い続けてきた経験は、個人にとどまらず、長岡工場にとっても確かな蓄積となっている。
「難しいものに取り組んできた分、得られた経験は大きいと思っています。それは工場全体にとっても一つの財産です。」
エネルギーを取り巻く環境が変化する中で、水素の役割は今後さらに大きくなる。
「エネルギーはこれからの社会にとって重要なテーマであり、未来に繋がる分野に関われていることに大きなやりがいを感じています。将来、水素エネルギーが当たり前になったときに、“このローディングアームをつくったのは自分なんだ”と、子どもたちに自慢できる日を夢見ています。」
長い時間をかけて積み上げてきた技術が、いま実証の現場で試されようとしている。その成果は、未来のエネルギーを人々の暮らしへと届ける“架け橋”となる。
その最前線で、次の挑戦に向き合っていく。
取材を終えて|グループ広報部より
液化水素という未知の領域に挑み続けてきたこのプロジェクトは、単なる装置開発にとどまらず、次世代エネルギー社会の実現に向けた重要な一歩だと感じました。その最前線で求められていたのは、前例のない技術課題に粘り強く向き合い、試行錯誤を積み重ねる力でした。
印象的だったのは、「成立させる」から「再現できるものへ」とフェーズが変わっていく過程です。個人の経験や勘に依存していた知見を、誰もが扱える“技術”へと昇華させる。その積み重ねが、信頼性を支え、社会実装へとつながっていきます。
水素の役割が広がるこれからの社会において、確かな技術で応えていく姿勢は、東京貿易グループのビジョンに掲げられている「粘り強く誠実に提案し続けることで、社会の役に立ち、時代をともに突き動かしていく。」という言葉にも重なります。
長い時間をかけて培われた技術は、いま社会とつながり、未来へと引き渡されようとしています。
その価値と可能性、そして現場で積み重ねられている挑戦の姿を、私たちも発信し続けます。
東京貿易グループでは、様々な活躍の場や、キャリアの機会があります。ぜひ一緒にはたらいてみませんか?お気軽にこちらからお問い合わせください。
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